金属のバネの見えない入れ歯

金属のバネが見えない
入れ歯は可能？

「入れ歯の金属のバネが目立つのが嫌」
「保険の入れ歯は見た目が悪い？」

このようなお悩みをお持ちの方は非常に多くいらっしゃいます。
私は東京科学大学 義歯科准教授・外来医長として、長年にわたり目立たない入れ歯（審美義歯）について患者さんのご相談を受けてきました。
ここでは、金属のバネが見えにくい入れ歯の代表的な選択肢を、メリット・デメリットも含めてわかりやすく解説します。

1. 金属のバネ（クラスプ）
が目立たない設計にする方法

部分入れ歯の金属のバネは、形態や種類を工夫することで目立ちにくくすることが可能です。

一般的によく使われるJ字型クラスプを、I字型クラスプ(Iバー)に変更することで、歯にかかる金属の面積を大幅に減らすことができます。その結果、正面から見たときにバネが見えにくくなります。
ただし、I字型クラスプは歯の下側（歯肉寄り）から支える構造のため、笑ったときに歯肉がよく見える方では逆に目立つ場合もあります。

この方法は、口元の見え方を考慮した個別設計が重要になります。

2. ノンメタルクラスプ義歯
（目立たない入れ歯）

現在、「金属のバネがない入れ歯」「目立たない部分入れ歯」として最も広く知られているのが、ノンメタルクラスプ義歯です。
金属を使用せず、歯肉の色に近い弾性樹脂をバネとして用いるため、見た目には入れ歯と気づかれにくいのが最大のメリットです。
実際に、金属アレルギーや審美性を気にされる患者さんから高い満足度を得ています。

一方で、以下のようなデメリットもあります。

・金属と比べて耐久性が低く、経年劣化しやすい
・歯肉を覆う面積が広く、清掃不良で歯肉炎を起こしやすい
・破損時に修理が難しい、または不可能な場合がある

特に、欠損歯が多く床面積が広い義歯では、樹脂のたわみにより歯肉を圧迫し、痛みや咬みにくさが生じることがあります。

無理に長期間使用すると、顎の骨が過度に吸収（やせる）してしまうリスクもあります。
このような場合には、強度が必要な部分を金属で補強し、見える部分だけノンメタルクラスプを用いる「ハイブリッド義歯」が有効です。
機能性・審美性ともに優れており、日本補綴歯科学会のコンセンサスでも推奨されている方法です。

3. 磁性アタッチメント
（磁石）を用いた入れ歯

磁石を使った入れ歯（磁性アタッチメント義歯）も、金属のバネを使わない選択肢の一つです。
歯と入れ歯を磁石で固定するため、外から金属が見えることはありません。
ただし、歯の頭（歯冠）部分を除去する必要があるため、すでに根管治療が行われている歯が主な適応となります。磁石は縦方向の力には強い反面、横方向の力には弱いため、お口全体のバランスを考えた義歯設計が不可欠です。

4. コーヌステレスコープ義歯
（バネのない高精度義歯）

コーヌステレスコープ義歯は、金属のバネを使用しない、非常に安定性の高い入れ歯です。
歯に内冠を被せ、その上から外冠を組み込んだ義歯を装着する二重冠構造で、例えるなら「2つの紙コップを重ねた構造」のようなイメージです。
縦・横の力に対して摩擦力でしっかり抵抗するため、噛み心地が良く、長期的に安定します。

一方で、
・歯を削る必要がある
・高度な技工精度が必要
・貴金属を使用するため
費用が高額になりやすい
といった点がデメリットになります。

まとめ｜金属のバネが
見えない入れ歯は
「診断と設計」が重要

このように、金属のバネが見えない・目立たない入れ歯には複数の選択肢がありますが、それぞれに適応条件・メリット・デメリットがあります。
大切なのは、「どの入れ歯が良いか」ではなく、一人ひとりのお口の状態に合わせて、適切な診断と設計を行うことです。
ぜひ、義歯治療のトレーニングと経験を積んだ補綴歯科専門医にご相談ください。