はじめに
もし奥歯を1本失ってしまった場合、放置しても問題ないのでしょうか?
奥歯が何らかの理由で欠損や抜歯した場合に口を開けた際に目立たないため、支障がないと考える人もいるでしょう。しかし、左右上下の歯が支え合ってかみ合わせを維持しているため、1本でも歯がない状態で放置すると、さまざまなトラブルが生じる可能性があります。
第一に、失った歯の隣の歯は空いたスペースに向かって傾くことがあります。この傾向が進行すると、後になって治療しようとした時に難しくなる可能性もあります。
さらに、失った歯と対合していた歯が、そのスペースに向かって伸びていくことがあります。こうしたことが重なることで、歯全体の歯列が次第に乱れていきます。
また、歯を失うことで食べ物を噛む際の咬合力が低下し、食べ物を十分に噛めていないまま飲み込むことになります。
その結果、胃や消化器官に過度の負担がかかる可能性があります。同時に、歯を失った側よりも反対側の方が噛みやすいため、無意識に偏った噛み方をしてしまい、特定の歯でのみ食べ物を噛むことが起こります。
こうした状態には多くのリスクが存在します。
例えば、右側の歯でのみ噛む場合、その歯に負担が集中するだけでなく、右側の首、肩、腰にも痛みが生じる可能性があります。
さらに、右側の顔の筋肉が発達し、左側の筋肉が衰えることで、顔の左右差が生じ、歪んだ印象を与えることがあります。こうした歪みが放置されると、顎に痛みを感じる顎関節症が発症する危険性も考えられます。
このように、たとえ1本の歯だけが失われたとしても、その放置は口腔内だけでなく全身に影響を及ぼす可能性があります。欠損しているのは奥歯1本だけと考えずに早めに歯科医院を受診し、適切な治療を受けることが重要です。
選ぶべき部分入れ歯3種とおすすめのポイント
部分入れ歯は、部分的に歯が欠損している場合にその欠損箇所を補うための入れ歯です。「部分入れ歯」と言っても、その種類は多岐にわたります。
保険適用の入れ歯と自費での入れ歯では、審美性、機能性、費用に大きな違いがあります。入れ歯を検討される際には、以下の種類をご参考にされることをおすすめします。
部分入れ歯とはどんなもの?部分入れ歯と上手に付き合う5つの方法 >
1、保険適用の部分入れ歯
部分入れ歯の製作には、型取りや咬合調整などのプロセスが関わります。
保険適用の部分入れ歯は、これらの工程を迅速に行い、短期間で製作されるタイプです。このタイプの入れ歯は、ベース(土台)や人工歯にはプラスチック(レジン)が使用されます。
素材の性質上、薄くすると脆弱になりがちで、そのために一定の厚みが必要です。従って、装着時に違和感があることがあります。プラスチックの素材は衝撃に弱く、取り扱いには十分な注意が必要です。また、摩耗が早く、劣化も進行しやすい素材ですので、長期間の使用には向いていません。
歯に噛み合わせるためのバネ(クラスプ)は、金属以外の素材を使用することができないため、一部の部位で目立つ可能性があります。新しく製作されたばかりの部分入れ歯は、外れやすいことや歯ぐきなどへの違和感が生じることがあります。そのため、複数回の通院と調整が必要です。
保険適用の部分入れ歯は、国によって定められたルールにより、6ヶ月間内での再製作が制約されていますので、注意が必要です。
保険適用の場合、健康保険の医療費の自己負担割合は人によって異なるため、それに応じて部分入れ歯の製作費用も変動します。自己負担率が1割の場合、部分入れ歯の製作費用の大まかな相場は約1,200円から約2,500円程度であり、3割の自己負担の場合は約3,000円から約14,000円程度となります。
●メリット
・経済的な負担が軽減される
・迅速に入れ歯を製作できる
・修理や調整が容易
・多様な口腔内の状態や症状に適用可能
2、チタン床入れ歯
このタイプの部分入れ歯は、ベース(土台)がチタン合金で製作されています。
この入れ歯は高い強度を持つものの、修理が難しいことや修理に時間がかかることがあります。また、一部の場所では金属が目立つ可能性があります。
自費診療となるため、費用の目安は約220,000円から約880,000円程度です(歯の数や部位により価格は異なります)。
●メリット
・金属アレルギーを引き起こしにくい
・他の金属床入れ歯と比較して軽量
・金属の堅牢性により薄く製作可能で、装着時の違和感が軽減
・熱伝導性が高いため、食事をより楽しむことができる
・適切なフィット感があり、自然な会話が可能
・微生物の付着を抑える性質があり、臭いが少なく、衛生的な使用が可能
3、テレスコープ(コーヌスクローネ)入れ歯
テレスコープ(コーヌスクローネ)入れ歯は、歯の残りの部分を整えて内冠(金属の被せもの)を装着し、その上に外冠として入れ歯を取り付け、安定させる仕組みを採用しています。
この治療法には、歯の切削が含まれるため、入れ歯の完成までには相応の期間を要します。
また、歯がほとんど残っていない状態や、全く歯がない状態では適用できないことがあります。自費診療となるため、テレスコープ(コーヌスクローネ)入れ歯の費用の目安は約800,000円から約1,500,000円程度です。
●メリット
・バネ(クラスプ)を使用しないため、審美的に優れる
・しっかりと固定される構造により、食べ物を噛む際に自然な咬合力を発揮できる
・修理が容易であり、長期間使用可能
・汚れが付着しにくく、清潔な状態を保ちやすい
・就寝時に取り外す必要がなく、急な外出時や災害時などでも安心して使用できる
まとめ
奥歯は歯ブラシが届きにくく、磨きにくいため、虫歯などが生じやすい部分です。そのため、失われた奥歯と隣接する歯は、歯垢や菌の蓄積がより進みやすくなります。
今後の歯の損失を防ぐために、これまで以上に丁寧なケアを心がけましょう。
保険適用外(自費)の入れ歯は、保険適用のものと異なり制約が少ないため、歯科医院や患者さまの口腔内の状態により、費用が異なります。
また、医療費控除の対象になることやデンタルローンを利用できる場合もあります。
経済的な懸念がある場合は、歯科医師に相談し、適切な選択をご検討ください。